野球選手へ1 なぜ「力を出そう」とすると、球速が落ちることがあるのか── 神経のトーンと投球動作の話
野球選手へ|「今日は力が出ない」の正体は、筋力じゃないことが多い
みなさんこんにちは。
BODY PATHWAY代表の早田です。
いつもブログをお読みいただき、ありがとうございます。
私はTri-Aid(トライエイド)の日本代理店として活動する一方で、
フィジカルトレーニングのトレーナーとして、日々アスリートの現場にも立っています。
今日は、
ある投手のワンセッションを通して見えてきたことをもとに、
「なぜ力が出ない日があるのか」
「そのとき身体の中で何が起きているのか」
についてお話しします。
努力しているのに成果が出にくいとき、
調子の波が気になるとき、
感覚がうまくつかめないとき。
そんな時期にいる野球選手に、
何か一つでもヒントになれば幸いです。
「今日は力が出ない」の正体は、筋力じゃないことが多い
野球をやっていると、こんな日がありませんか。
- 力はあるはずなのに、球が走らない
- 体は動いているのに、どこか硬い
- 投げる前に、呼吸が浅くなる
- 動作の途中で、一瞬止まる感じがある
このとき、多くの選手はこう考えます。
「もっと力を出さないと」
「気持ちが弱いのかな」
「フォームが崩れているのかも」
でも実は、
筋力や気持ちの問題よりも前に起きていることがあります。
脳と身体は「安全かどうか」を最優先で判断している
人の身体は、
「速く動く」
「強く出力する」
その前に、必ず無意識にこう問いかけています。
今、この身体は安全か?
この判断をしているのは、
考えている頭(大脳皮質)ではなく、
もっと原始的な部分――脳幹や前庭系です。
これは精神論の話ではありません。
かなりフィジカル寄りの話です。
たとえば投球動作でいうと、
MER(肩関節最大外旋位)の局面。
このとき身体は、無意識に
「ここから内旋方向へ、十分な力を出せるか?」
をチェックしています。
もし、
- 内旋筋群の出力が足りない
- パワーが出ない
- タイミングが合っていない
こうした状態があると、
たとえ肩関節の可動域が十分にあったとしても、
身体はこう判断します。
「この角度から全力で振るのは危険だ」
すると、
- 出力を無意識に落とす
- 動作にブレーキをかける
- スピードを抑える
といった反応が起きます。
これは
痛みが出る前に、勝手に止めるための安全装置です。
特に投球動作は、
- 頭が高速で動く
- 体が大きく回旋する
- 視線は捕手方向に残る
という、
神経にとって非常に負荷の高い動き。
ここに
「この姿勢・この角度で、ちゃんと出力できるか?」
というフィジカルな不安要素が加わると、
身体は即座に、
「今は全力を出す局面じゃない」
という判断を下します。
出力が落ちるのは、失敗ではなく“安全装置”
この判断が入ると、身体には次のような変化が起きます。
- 無意識に力をセーブする
- 関節が固まる
- 呼吸が浅くなる、止まる
- 動きに「間」が出る
これはサボっているわけでも、
技術が足りないわけでもありません。
身体の安全装置が、きちんと働いている状態です。
だから、
「力を出そう」とすればするほど
逆に球速が落ちる
ということが起きます。
目が“働きすぎている”と、身体は構える
ここで重要になるのが視覚です。
目は「見る」ための器官ですが、同時に、
- バランス
- 姿勢
- 空間の安定
を判断するセンサーでもあります。
試合中、
- 視界に情報が多い
- ランナーが気になる
- 観客やベンチが視界に入る
- 視線を「決めにいっている」
こうした状況では、
目が一生懸命に働きすぎてしまうことがあります。
すると神経は、
「情報が多い」
「まず安定を優先しよう」
と判断し、
出力にブレーキをかけます。
「鍛える」前に、「落ち着かせる」という選択
現場では、
こうした反応を感覚だけで判断するのではなく、
- どの神経の働きが過敏になっているか
- どこでブレーキがかかっているか
を整理して見ていきます。
(神経の働きを“地図”のように整理して捉えるイメージです。)
そうすると、
- いま必要なのは「鍛えること」なのか
- それとも「落ち着かせること」なのか
が見えやすくなります。
調子が落ちているときほど、
「反応を速くする」よりも、
まず神経のトーンを下げることが大切な場合が多いです。
神経にも「ストレッチ」と「脱力」が必要
そこで私はセッションでは、
- 頭と目を一緒に、なめらかに動かす
- 視線を無理に固定しない
- 呼吸が自然に流れる強度で行う
こうしたことを重視しています。
これは、
目のトレーニングというよりも、
神経のストレッチと脱力に近い感覚。
強くする前に、
まずはしなやかさを取り戻す作業です。
「ほぐす」よりも、「神経が安心する」
首や胸まわりのケアも同じです。
ガシガシ強くほぐすと、
かえって神経が身構えてしまうことがあります。
だから、
- 刺激は軽く
- 短時間
- 「気持ちいい」より「静かになる」
この感覚を”まずは”大切にしています。
(トライエイドも、
無理に変えるための道具ではなく、
神経が落ち着くきっかけとして使う場面が多いです。)
強くやる必要はありません。
むしろ、やりすぎない方がいいこともあります。
うまくいっているサインは、球速じゃない
この段階で見るべきサインは、
- 呼吸が勝手に流れている
- 視線を気にしなくなっている
- 動作が止まらなくなっている
- 力感が軽い
球速が上がるのは、最後です。
順番を飛ばして球速だけを追いかけると、
また安全装置が働いてしまいます。
まとめ
調子が悪いとき、
「もっと出さなきゃ」
と思うのは自然なことです。
でも、その前に一度、
こう問いかけてみてください。
いま、身体は安心して動けているか?
力を出すために必要なのは、
気合よりも、
神経が落ち着く環境。
そこが整ったとき、
球速は「出そう」としなくても、
自然とついてきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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次回予告
野球選手へ2| 「今日は力が出ない」の正体は、 筋力ではなく、身体の“判断”かもしれない
関連記事
このテーマは、「神経の反応」という共通の土台から、別の角度でも掘り下げています。
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①なぜ「力を出そう」とすると、球速が落ちることがあるのか
── 神経のトーンと投球動作の話 - ②「今日は力が出ない」の正体は、筋力ではなく、身体の“判断”かもしれない
-
③野球選手へ|力を出そうとすると止まるのは、
身体の“主導権”が入れ替わる瞬間に起きている - ④視線が“座る”と、身体は止まらなくなる
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執筆:早田 航(Tri-Aid 日本正規代理店)
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